DockerのMCP Toolkitとは

Docker MCP カタログとツールキットで MCPを便利に使う。セットアップから連携まで。

最近、外部ツールと連携させるための標準プロトコルとして「Model Context Protocol (MCP)」が急速に注目を集めています。しかし、その一方で、MCPの活用にはそのツールの発見の難しさ、複雑なセットアップ、セキュリティ確保といった課題を感じていました。

そんな中、Docker 社がこれらの課題を解決し、AI エージェント開発体験を向上させるための「Docker MCP カタログ」と「MCP ツールキット」をベータ版として発表しました。これにより、開発者は MCP ツールをより簡単かつ安全に利用できるようになり、プロジェクトやチーム間でのスケーラビリティも向上します。

今回は、この Docker MCP カタログとツールキットの概要から、実際のセットアップ方法、AI エージェントとの連携までを解説します。

Docker MCP カタログとツールキットとは

MCP が AI エージェントシステムのバックボーンとして期待される一方で、開発現場では以下のような課題に直面しています。

  • ツールの発見が困難: 公式で信頼できる MCP サーバーを見つけるのが難しく、情報が分散しています。
  • 複雑なインストールと配布: ツールごとの環境構築や依存関係の管理が煩雑で、移植性にも問題がありました。
  • 不十分な認証と権限管理: セキュリティが後回しにされがちで、機密情報の漏洩リスクや、エンタープライズレベルでの運用に必要な機能が不足していました。

Docker MCP カタログとツールキットは、これらの課題に対して明確なソリューションを提供します。

  • 厳選されたMCPサーバーの発見: Docker Hub の一部として提供される MCP カタログにより、信頼できるコンテナ化された MCP サーバーを簡単に見つけることができます。
  • シンプルなインストールと実行: MCP ツールキット (Docker Desktop 拡張機能) を使えば、数クリックで MCP サーバーを安全なコンテナ環境で実行できます。依存関係の衝突や環境差異といった悩みから解放されます。
  • セキュリティ中心の設計: Docker コンテナの堅牢なセキュリティ機能を継承しつつ、MCP サーバー固有の新たな脅威 (Tool Poisoning や Tool Rug Pull など) にも対応。安全な認証情報ストレージや OAuth サポートも組み込まれています。

Docker MCP ツールのセットアップ

それでは、実際に Docker MCP ツールキットを使って、AI エージェントと MCP サーバーを連携させる手順を見ていきましょう。

1. セットアップ

まずは、お使いの環境に Docker Desktop がインストールされていることを確認してください。

  1. Docker Desktop のインストール: もしまだインストールしていない場合は、公式サイトからダウンロードしてインストールします。
  2. MCP ツールキットのインストール:
    • Docker Desktop を起動します。
    • 左側のメニューから「Extensions」(拡張機能) を選択します。
    • 検索バーで「MCP Toolkit」と入力し、検索します。
    • 表示された「MCP Toolkit」をインストールします。

これで準備は完了です。

2. MCP サーバーの起動と AI エージェントとの接続

次に、MCP ツールキットを使って MCP サーバーを有効化し、お使いの AI エージェントと接続します。

  1. MCP ツールキットを開く: Docker Desktop の「Extensions」メニューから、インストールした「MCP Toolkit」を選択して開きます。
  2. MCP サーバーの有効化:
    • 「MCP Servers」タブに、利用可能な MCP サーバーのリストが表示されます。
    • ここでは例として、時間を取得する「Time」サーバーを探し、スイッチをオンにして有効化します。(サーバーによっては API キーなどの設定が必要な場合もあります)
  3. AI エージェントとの接続:
    • 「MCP Clients」タブに切り替えます。
    • 接続したい AI エージェント (例えば、下記イメージでは「Cursor」) を選択します。
    • 「Connect」ボタンをクリックして接続します。

 これまでは、AI エージェント(例えば Cursor)で複数の MCP サーバーを利用しようとすると、以下のように個別の設定が必要で、管理が煩雑になるケースもありました。

JSON
// 以前の Cursor 設定例 (抜粋)
{
    "inputs": [
        // ... (省略)
    ],
    "mcpServers": {
        // ... (省略)
        "filesystem": {
            "command": "/Users/takumi/.nvm/versions/node/v22.14.0/bin/node",
            "args": [
                "/Users/takumi/.nvm/versions/node/v22.14.0/lib/node_modules/@modelcontextprotocol/server-filesystem/dist/index.js",
                "/Users/takumi/Documents/src/private_src/daily/2025-04-27/mastra-embeddings-sample"
            ]
        }
    }
}

さらに、環境によっては、例えば特定の Node.js モジュールを実行するために /Users/takumi/.nvm/versions/node/v22.14.0/lib/node_modules/@modelcontextprotocol/server-filesystem/dist/index.js のようにフルパスでコマンドを指定しないと AI エージェント (例えば Claude) でエラーが発生したり、MCP サーバー自体の起動が不安定になったりすることもあり、セットアップやトラブルシューティングに手間がかかることも少なくありませんでした。

これが Docker MCP ツールキットを導入することで、以下のように非常にスッキリします。個別にインストールや設定が必要だったものも、ツールキット側で有効化するだけで、AI エージェント側の設定はシンプルに保てます。

JSON
// Docker MCP ツールキット導入後の Cursor 設定例 (抜粋)
{
    "inputs": [
        // ... (省略)
    ],
    "mcpServers": {
        // ... (省略)
        "MCP_DOCKER": { // Docker MCP ツールキット経由で複数のMCPサーバーを利用
            "command": "docker",
            "args": [
                "run",
                "-l",
                "mcp.client=cursor",
                "--rm",
                "-i",
                "alpine/socat",
                "STDIO",
                "TCP:host.docker.internal:8811"
            ]
        }
    }
}

 このように、MCP ツールキットは設定の簡略化にも大きく貢献します。

ツールの実行とコンテナの自動起動の仕組み

ここで気になるのが、「サーバーを有効化したら、裏では何が起きているの?」という点です。

MCP ツールキットのいいところは、AI エージェントが実際にそのツールを利用しようとしたタイミングで、対応する MCP サーバーのコンテナを自動的にバックグラウンドで起動してくれる点です。(遅延実行みたいな感じです)

例えば、開発業務で頻繁に利用する GitHub との連携も、MCP ツールキットを使えば非常にスムーズです。Cursor を使っているとしましょう。

  1. まず、Docker MCP ツールキットの「MCP Servers」タブで「GitHub」サーバーを有効化しておきます。
  2. 次に、Cursor に対して「新しい機能Xに関する Issue をリポジトリYに作成して」と指示します。
  3. Cursor は (ユーザーの同意に基づき) MCP ツールキットを通じて GitHub MCP サーバーのコンテナを起動し、Issue を作成します。
  4. 続けて、「さっき作成した Issue X の内容に基づいて、機能Zを実装するコードを書いて」と指示すれば、Cursor はその Issue を参照し、コーディングを支援します。
  5. 最後に、「この変更を元に Pull Request を作成して」と指示すれば、PR の作成まで一気通貫で行うことができます。

このように、単に設定をオンにしただけではリソースを消費せず、AI エージェントからの具体的な要求があった時に、必要なツール(この場合は GitHub MCP サーバー)のコンテナが起動され、タスクが実行されます。ユーザーは複雑なコンテナ管理や個別のサーバー起動コマンドを意識することなく、AI を通じてシームレスに様々なツールを活用できるのです。

Docker MCP カタログとツールキットがもたらすメリット

  • ワンクリックでのクライアント連携: Gordon (Docker AI Agent)、Claude、Cursor、VSCode、Windsurf、continue.dev といった主要な MCP クライアントとの連携が、ワンクリックで簡単にセットアップできます。
  • セキュリティの強化: OAuth サポートと安全な認証情報ストレージにより、機密情報をハードコーディングすることなく、安全に MCP サーバーやサードパーティサービスと認証できます。
  • エンタープライズ対応への布石: 今後は Docker Hub で独自の MCP を構築・共有できるようになる予定です。検証済みイメージやアクセス管理といった Docker Hub の堅牢な機能が MCP にも拡張され、エンタープライズレベルでの安全なツール配布と利用が可能になります。

まとめ

Docker MCP カタログとツールキットは、急速に拡大する MCP ツールのエコシステムに対して、待望されていた構造、セキュリティ、そしてシンプルさをもたらします。これにより、開発者は MCP サーバーの発見、インストール、保護といった煩雑な作業から解放され、よりスマートで高性能な AI 搭載アプリケーションやエージェントの開発に集中できるようになるでしょう。

Docker は、コンテナ技術でソフトウェア開発とデプロイの方法を変革してきた実績があります。その信頼性の高いエクスペリエンスを、MCP ツールを活用した AI エージェント開発という新たなフロンティアにもたらそうとしています。

ぜひ、Docker Desktop の拡張機能メニューから Docker MCP カタログとツールキットを試してみてください。